サイドストーリー

『ぼく、もうケガしないよ』を作るきっかけとなった
本当にあった“私”の物語を、紹介します。

  
母が亡くなった 
 早死にでもなく長生きとも言えない、 
どのお年寄りとも似たように、少し患って、 
最期に「ありがとう」と唇を動かした翌朝、
眠るように息をひきとった 
家族揃って看取ることができたのは、今この国が平和だからだろう 
  
母の死に顔を見ている 
見慣れた顔、たくさんの皺、 
それはまるで彼女の喜怒哀楽を刻み込んだ記憶のようだ 
 
母さん… 
あなたは幸せだったかい? 
 
母は白い骨になり、ひと月が過ぎた 
 
私は息子として、あなたを充分に愛しただろうか… 
母さんの話をもっと聞いてやればよかった 
もっとたくさん笑わせてやればよかった 
手を取って散歩に付き合うのも妻任せだった 
 
もう私の名前を呼んでもくれない… 
 
ふとした時間の隙間に、得体の知れない心許なさが込み上げる 
親をなくすのは、こんなにさびしいことだったんだな 
 
  ・・・・・・・・

「おばあさんはどこへいったの?
きえちゃうの?」
 
もうすぐ7歳になる息子に尋ねられたのはそんな頃だった 
 
「おばあさんは死んでしまったんだ」 
と私 
…答えになっていないのは、
自分の気持ちに整理がついていないからだったろうか 
そんな私を見透かすように、すかさず息子は問い返す 
 
「しぬって なに?」 
 
そう問われて、正直、自分が言葉に詰まると思った 
けれど、不思議なほどすんなりと、私は“その言葉”を口にしていた 
 
「おばあさんの体は無くなってしまったけれど、
いつでも君と一緒にいるんだ」 
  
「ほら、君の体をめぐるその赤い血の中で、今でも生きているんだよ 
おばあさんだけじゃない、おじいさんも、
そのまたおじいさん・おばあさんも、
もっともっと前のたくさんのご先祖さまたちも、 
それからもちろん、お母さんと私もね」 
  
ああ…思い出した 
これは私自身が少年の頃から、繰り返し両親の声で聴いて来た言葉だ 
 
この大切なことを私が忘れないように、両親はちゃんと伝えてくれていた 
父さん、母さん、私は今やっと親になれた気がするよ 
  
私の言葉に、しばらくは無言で自分の掌を見つめていた息子が
顔を上げてこう言った 
 
「そうか 
だったらぼく、もうケガをしないよ!」 
 
…いったい何のことだ? 
そう問いかける間もなく彼は言葉をつなぐ 
 
「だってさ」 
 
何か壮大なイメージが、息子の内に広がっているようだ 
  
「ぼくがケガして血が流れたら、 
おばあちゃんがぼくの体から出ちゃうから」 
 
その瞬間、私はまだ小さな息子の発したその言葉に惹き込まれ、
その思いはリンクして私の中に膨大な世界観となって現れた
  
父と母が教えてくれたのは、
もしかしたら単に一族の血を絶やさないための教義だったのかも知れない…
そういう“時代”だったから 
 
けれど、それを息子が受け取った今、この瞬間に、
それは血族だけのことではなくなったようだ 
 
「血が流れたら 
みんな悲しいよ」 
 
息子が言う“みんな”は、人を結ぶ“絆” なのだろう
何千年も前の私の祖先から枝分かれした、世界中にいる名も知らぬ誰かが、親・子・孫…と受け継ぎながら、自分と同じ遺伝子を共有している 
 
傷ついた人が血を流す 
傷つけた方は心が痛む 
 
そんなこと、みんなあたりまえに思っている 
でも実際その場に立ったら…?
そんなあたりまえのことが通用しなくなる犯罪や戦争という場面に
実際自分が立つというイメージはできるだろうか? 
 
今、あたりまえだと誰もが認識している多くのことは、
本当は大勢の人たちが、長い時間をかけてそれを
あたりまえにしようと努力してきた結果なんだと改めて思った
  
私は両親から教わったことを息子に伝えた 
息子はもっと大きな愛のあり方を、私に教えてくれた 
 
この話を知ったあなたは、どんなことを考えただろう? 
  
いつか、会えたら…

あなたとそんな話をできることが“あたりまえ”になりますように

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最後に
この本を読んだお子さんには、
自分の命の大切さや、
両親、祖父母との血のつながりが伝わり、
自分を大切にすることでしょう。
お子さんの毎年のお誕生日には、みなさんのご両親である祖父母に感謝の気持ちを込めて お子さんを通して、幼い子のお絵かきに
あなたの一言をそえ、カードや手紙の贈り物をして下さい。
プレゼントをもらうのが当たり前のお子さんから
「逆・プレゼント」です。

きっと、祖父母はお孫さんが成人になるまでその
手紙を大切に保管しながら楽しみに長生きしたいと願うでしょう。

あなたのお子さんは、この「あたりまえ」を
自分の子どもへとさらに繋いでいくことでしょう。